2008年 Spring Art Collection
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ギャッベ
 
   遊牧民のテントを訪ね、「あなた自身が織った最も大切な絨毯を見せてほしい」と頼むと、必ずや赤を基調としたギャッベ・ガリ絨毯を出してくる。赤は勇気と命の色、遊牧民の人々が最も好む色。ナゼムというダイヤモンド図柄が入り、ボーダーにも規則的に細かい模様が並んで、私たちが遊牧民の絨毯として親しんでいる素朴な風合いのギャッベ絨毯とは、明らかに趣を異にする。
 部族の伝承文様が精緻に織り込まれたギャッベ・ガリ絨毯は、自らが属する部族社会の誇りであり、織り手としての存在証明そのもの。その昔、部族の支配階級に献上する絨毯としても、ギャッベ・ガリが織られたという歴史がある。では、素朴な絨毯「ギャッベ」は彼らにとってどんな存在なのかといえば、生活の中で日常使いをする家族のための絨毯ということである。自分たちが生活用具としてつくってきたギャッベを「素晴らしい絨毯」と騒ぎたてている私たちを少しばかり奇異の眼差しで見つめている感じもする。
 しかし、彼らが細かな決まり事に縛られず自由な発想で織った生活用具のギャッベの中にこそ、既に私たちの社会が失ってしまった不完全ながら親しみに満ちた世界を発見し、魅了されるのではないかと思う。
 
  

 雪の残る標高2400mの峠を越えるとルリ族の暮らす谷に出る。ギャッベの集散地であるシラーズから車で2時間、それほど離れているわけではない。それでも、6年ほど前までは車が通行できる道もなく、村へはロバを使っていたという。村の名前は「シーマンマディ」。ゾランバリー社の社主、Mr. ゴラム・レザ・ゾランバリー氏とは50年来の信頼関係で結ばれている。2008年ドイツで行われたCarpet Design Awardsで、世界の優れたカーペットに送られる賞を受賞、今や世界中でギャッベ絨毯のゾランバリー社といわれる発展の源となった村だ。

 

 
  

 この谷に暮らすルリ族は独立心が強く、自由を尊ぶ生活を今も守っているという。この村を訪ねるのは3回目。村に泊めてもらった。村一番の織り手、エシュラットさんの案内で村を巡る。この村では2×3m以上のサイズを上質な糸を使って織る。生成りの地に無作為にドット模様が散っているナチュラルカラーの上品な絨毯である。ゾランバリー社がドイツのCarpet Design Awardsで発表する新作絨毯は、この村の女性たちが織り上げたものだ。

 

現在32歳のエシュラットさんが絨毯を初めて織ったのは15歳のとき。何と初挑戦に彼女が選んだのはライオンの絵柄だった。「技術があることを見せたかった」と語る。
 

大きいサイズの絨毯を織り進む女性たちの巧みな手の動きに目を奪われる。

 
織り上がったばかりの絨毯をゾランバリー氏に見せ、交渉する村の青年。染色していない優しい生成りの絨毯。洗いや刈り込みの仕上げ後の素晴らしさは想像に難くない。